スキューバダイビング中に殺人。
よくサスペンスドラマで、「殺人事件の証拠が雨で流れてしまってさあ困った」なんてシナリオを見ますが、そういう意味では、水中で遊ぶダイビングでは完全犯罪をしやすい? と、ふと思ったことのあるダイバーは少なくないと思います。
2人きりでバディダイビングをしようと誘い、後ろからタンクのバルブを閉めて羽交い締め。
息絶えたところでバルブを元に戻す……。
なんて、想像の羽を伸ばしてダイバー同士で楽しむ分には、エンターテインメントとしておもしろいですが、実際にそんな例がないかググってみると、日本では名探偵コナンシリーズの「スキューバダイビング殺人事件」ばかりが出てきますが、英語で検索してみると、「ハネムーン殺人事件」として、実際にダイビング中に殺人が疑われたニュースが大きな注目を集めています。
(英語検索「スキューバダイビング 殺人」)
http://www.theguardian.com/world/2009/jun/05/man-guilty-manslaughter-wife-scuba-death
(※以下、当時のニュース記事を僕のヘラヘラの英語力の範囲で和訳を……)
■2003年、11日間のグレートバリアリーフのスキューバダイビング旅行中、ダニエル・ワトソン(バーミンガム、アラバマ州)は、彼の花嫁であるクリスティーナ・メイ・ワトソンを溺れさせたとして殺人罪で起訴された。
■ワトソン(バーミンガム、アラバマ州)は、彼の妻は、ダイビング中、数分パニックの状態だったと警察のインタビューの中で主張。
彼女はバタバタもがき、彼のマスクをつかんだり押したりした。
彼女は目を見開き、彼に手を伸ばしながら水底へ沈んでいった、と。
■ワトソンはレスキューコースの認定を受けたダイバーで、初心者の妻のバディであった。
彼は経験豊富なダイバーであるにもかかわらず、彼女をレスキューするより、助けを求めに行くことを決めた。
ダイビングツアーのリーダーの一人が、彼女を水面に引き上げ、蘇生を試みるも失敗。
■他のグループのダイバーが、彼のバディを撮ったときの写真に、たまたまその時の様子が写っていた。
写真の背景には、水底に横たわる彼女と、彼女に向かって駆け寄るダイブマスターの様子が写っている。
■ワトソンが彼女のエア供給を断ち(バルブを閉め)、彼女が死ぬか、それに近い状態になったところで、水底に沈め、バルブを元に戻したと、警察は見立てている。
■クイーンズランド州の法廷で数カ月の調査の結果、死に疑わしい状況があるとしたが、彼の弁護士は「彼には動機がない」と主張した。
■しかし、彼女の父親トーマスは、結婚前に、ワトソンが生命保険の増額と受取人を彼一人にする変更を彼女に求めたことを聞いたと主張。
そして、「彼女は(実際には変更しなかったものの)彼に変更したと嘘を言うことに決めた」とトーマスは言う。
■警察は長引く法廷バトルの第一歩として彼に対する令状を準備。
■当初、事故だと考えた警察も、供述の詳細をいくつか変えた時に不振に思った。
■検視官は、彼女の死を裏付ける健康的な問題を見つけることはできなかった。
また、テストの結果、彼女の器材に問題はなかった。
■クイーンズランド州のグラスゴウ検死官は、正確な状況はわからないが、殺人を立証するに足る十分な証拠があるとの所見を示した。
■ワトソンは殺人容疑で正式に起訴され、検察は、アメリカにワトソンの身柄引き渡しの申請を行なった
(※ワトソンはアメリカ人で、事件が起こったのはオーストラリア)。
■アメリカのアラバマ州に住む彼女の家族たちはひと安心。
※
(その後)
事件は2003年。
2008年にクイーンズランド州で殺人により告発されたワトソンは、2009年により少ない過失致死の容疑で罪を認め、クイーンズランド刑務所で18カ月の刑期を2010年11月に完了。
裁判で有罪を認めたワトソン氏に対して18カ月というきわめて寛容な判決を言い渡したが、ワトソン氏の故郷である米アラバマ当局はこれを不服としており、ワトソン氏が米に到着次第、殺人及び誘拐罪で起訴するとみられている。
しかしアラバマ州では死刑が認められていることから、オーストラリア政府は米政府に極刑にはしないよう要請しこれが受け入れられる。
2010年11月25日木曜日。
ロサンゼルスへ到着したことで、そこで彼は拘留される。
金銭上の利益のための誘拐と極刑に値する殺人として、大陪審によって告発される。
なんやかやあって、2012年2月23日、アラバマ州の裁判官トミーネイルは証拠不十分として無罪判決。
※
後半はだいぶはしょってしまいましたが、実に10年近く、オーストラリアとアメリカの2国間に渡って争われた事件となりました。
その間の裁判の攻防を見るとダイバーにとっては興味深い内容がありますので機会があれば紹介します。
今回は、あくまで殺人は無罪なので、オーストラリアで、業務上過失致死として有罪になった理由にだけ着目すると、レスキューダイバーとして、彼女に処置をせず水底に放置したことや、バディとして、BCに空気を入れたり、ウエイトベルトを外すことを怠ったと指摘されています。
とかく日本人ダイバーは、安易にランクアップをしてしまいがちですが、Cカードのランクや経験によって成すべき役割がそれぞれにあるということや、バディとしても果たすべき責任があるということを再確認しておきたいですね。
ただ、この事件を殺人だと思っている方は多くいて、だからこそこの事件を題材にして映画も作られているんでしょうが、まあ、殺人としては証拠不十分となっていますので、あくまで“ダイビング中の殺人”という一般論の感想ですが、やはり、証拠を残さず殺す方法としてダイビングは……なんて恐ろしいことが頭をよぎってみたり。
この事件を知り、“自分の身は自分で守る”の意味が少し変わったのでした。

